書評:UNDERGRAND MARKET ヒステリアン・ケース
『Gene Mapper -core-』に引き続いて読んだFujii Taiyoの作品です。
三話完結のKindle連載で、彼の第二作目の『UNDERGRAND MARKET』の主人公たちがいかに結成されたかを語る序章的な作品になっています。
舞台はTPPから移民や難民を受け入れ、彼らが出身国への送金に利用していたN円という仮想通貨が、消費税を嫌う移民、若者を中心に地下経済を形成するまでになった2018年の東京。主人公たちはこれらの地下経済で生きるWeb周りの技術者たちという設定です。
読んでいてとっても気持ちがよかったのは、2つの点で「あるある」的な共感が出来たからです。
1つは地下経済に生きる主人公たちと表経済で生活する人々のどうしようもないリテラシーのギャップです。主人公たちは、スマホの"Bump"でアドレスを交換しチャットで連絡を取り合い、自転車で都内を移動し、リアルタイムの仮想通貨での決済を行います。一方で旧来の表社会に属する人々は名刺を交換し、電話やメールを好み、請求書での月末決済を行います。実利的には絶対にこっちのほうが便利なのにどうしても通じないこの感じ……わかりますねぇ。
つぎにシステム構築のプロジェクトのあり方。主人公たちはそれぞれのエリアで才能と経験に培われた技術を持ったプロフェッショナルとして描かれています。お互いに自身がやるべきこと、相手が必要とすることを理解していて、口に出す前に手が動いている。システムのプロジェクトって、毎回こうであればもっと短時間で安く、そして失敗しないシステム構築が出来るはずです。最近のIT企業はコードも書けないコンサルタントが、やれ構想だの、やれあるべき姿だのと数億円も垂れ流してプロジェクトを膨らませた揚げ句数百億規模の
失敗をします。5人程度の技術あるプロが集まれば、動くものができるものです。
なんて、ストーリーとはあまり関係ないところで共感したのは、著者は数年間システムエンジニアだったからでしょう。