ドラマ『anone』 は不遇の名作か

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広瀬すず主演ドラマ『anone』が最終回の放映を終えました。

重層的なテーマ

テーマは「ニセモノ、つまり虚構が人をつなぐ力」を描いた作品のように思います。

ドラマ冒頭から、偽りの思い出を支えに生きていた主人公ハリカ、偽札、田中裕子 演じる亜乃音のニセモノ故に壊れてしまった親子関係、ハリカと亜乃音の間に芽生える 擬似的な親子の関係、るい子にだけ見える幽霊(虚構)の子供など、「虚構」が 繰り返しドラマを進行させるキーとして登場します。

最終的に、虚構で結びついた亜乃音、ハリカ、るい子は本当の家族のように暮らして 生きます。まるで虚構で結びつく本当の絆もあると言うように。

現実も虚構も等しくかけがえないし、どちらも理不尽で、どちらも優しい。 今あるあり方が大事で、現実とか虚構とかどっちでもいいのではかと、このドラマ は問いかけているように思います。

テーマ自体も押し付けがましくなく、でも重層的に示される描き方はさすが だなと思いました。

記録的な低視聴率

しかし、残念ながら『anone』は 日テレ水曜22時のドラマ枠では10年ぶりの5%割れと 記録的に視聴率は低かったようです。

個人的に思いつく理由は分かりにくさではないでしょうか。

まず、テーマは最初から示されていますが、いろんな部分で暗示されるため、どう言う 描き方をしようとしているのか最初はなかなか分かりません。あとでよく考えると 「あぁ」と腑に落ちます。これについてこれないと「なんだか分かりにくいドラマだな」 と言う印象しか残らないでしょう。

そして、キャスティングです。

結果的にはこのキャスティングだからこその作品だったと思いますが、広瀬すず、 田中裕子、阿部サダヲ、小林聡美と並んだ時に、シリアスなのかコメディなのか 分かりにくく視聴者は混乱したんだと思います。

そして、シナリオの質の低さです。

描いているテーマは素晴らしいのですが、ここのストーリーの質が低すぎました。 例えば、偽札作りを始めると言うシナリオの馬鹿らしさは、さらに視聴者を混乱させる 原因となりました。

偽札を試す下りで「銀行とコンビニを回ります。1件目のATMで偽札を200万円預ける。 次の2件目でその200万円を下ろして。。。」と言うくだりがあるのですが、実際には こんなことはできません。

  1. 一回当たり200万が入金限度額の銀行が多いですが、一日の入金限度額を設けている 銀行も多いので、こんなことはできません。

  2. 出金についても同様に一回あたりと1日の限度額を設定している銀行がほとんどで 上記のようなことはできません。

ドラマの本筋とは関係ありませんが、こんな些細な雑さが気になってしまい、折角 緻密に織り上げてるテーマが台無しです。

それでも演技は素晴らしい

最終回が終わって、Huluで一回から見直しているのですが、田中裕子の存在感と 演技はやっぱり素晴らしく、それに負けずに熱演していた広瀬すずの演技力も この作品で改めて新境地に達した気がします。

第7話で偽札作りを手伝っているハリカ(広瀬)に気づいた亜乃音(田中)が、 怒りハリカを追い出すシーンがありますが、ハリカへの愛情や無念さ、焦り、 怒りなどほとばしる感情を田中裕子は迫力の演技で表現しています。

その後、理市(瑛太)が亜乃音を脅していることを知ったハリカが、激昂し 感情を爆発させて理市を殴りつけるシーンの広瀬すずの演技も田中裕子に 負けていません。

そして第9話では、彦星に治療を受けさせるために芽生えていた恋を諦め、 カーテン越しに彦星に「重荷になってきた」と心にもないことを語り始め、 涙を流しながら彦星が傷つくような言葉を次々と投げかけるハリカの演技は 胸が締め付けられるような切なさをよく表した名演技だったと思います。

キャスティングといいテーマといい素晴らしい要素はあったのですから、 もう少し分かりやすくストーリーを展開させればもっといいドラマになった はずの作品でした。

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