BOSS PX-1 Plugout FX についての個人的見解

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BOSS PX-1

一台でBOSSの歴代のエフェクターを再現できる夢のようなコンパクト・エフェクターが発表されました。 日本では割と好意的に受け止められていますが、海外ではシビアに批判が多いようです。

私自身は購入していませんが、製品情報を見た個人的な見解をまとめてみました。

サブスクリプション・モデルへの転換の危惧

PX-1は購入時16個のエフェクトを内蔵しており切り替えて使用可能ですが、 有償でモデル・パスを購入することでエフェクトが拡張できるとしています。

このモデルにエフェクトを追加するには、ライセンスをBOSS Effect Loaderという専用アプリでエフェクターにロードすることになります。 つまりソフトウェアです。そして、この追加ソフトウェアはハードウェアでなく無料のローランドアカウントを作成して アカウントに紐づけてライセンス管理されるようです。

ローランドから正式なアナウンスは出ていないようですが、一般的に考えると譲渡不可となることが多いようです。 つまり、現在普通に行っている不要なエフェクターは「中古で売る」ということができない可能性があります。

米国では少額だがちまちま追加費用が必要なビジネスモデルを "Micro Transaction"と言って、 嫌うユーザー層が一定数います。実際のコストパフォーマンスというより、「購入したのに、少額でも追加の費用が発生する」という状況が心理的に「騙された」感があるのでしょう。

またローランドは、あまり成功しているとは言えない Roland Cloudも運営しています。このため「将来的にサブスクリプションモデルに移行するのではないか」という疑念をユーザーが持ってしまっています。

何でもできるが、一つしかできない

個人的にこのエフェクターの発表を見た時、一番の疑問は「何に使うの?」でした。

初期に内蔵する16個のエフェクトは歪み系、モジュレーション系、空間系と、「これだけあれば音作りは完結する」という充実です。

しかし、PX-1は「- 1つのエフェクトにすべてのDSPリソースを費やすことで、オリジナルのトーンやレスポンスを忠実に再現」と謳われている通り、1時点で有効にできるエフェクトは一つだけです。 つまり、PX-1はすべてできるのに、これだけでは何も完結しないのです。PX-1のどのエフェクトを有効にするかで、エフェクターボード内でのPX-1の位置付けも変わってきます。 こんなもの、どう使いますか? これを見た瞬間に「技術的には面白いけど、こんなもの要らない」と思いました。

ではどうすればよかったか?

個人的にはエフェクトのグルーピングをして、PX-1は歪み系、PX-2はモジュレーション系、PX-3は空間系などとラインナップを作っていれば、 それぞれが今のPX-1と同じように4万円弱の価格でも売れたと思います。

例えば、歪系のOD-1,SD-1, DS-1, DF-2だけにして今の価格で販売しても、私は購入したと思います。 理由は次の通りです。

  • 個別にこの4つのエフェクターを購入するより安価である
  • 歪み系ならブティック系のエフェクターならば、4万円弱という価格はそれほど高価でもない
  • OD-1やDF-2など今では中古でしか手に入らず、しかも価格が高騰しているモデルも含んでいる。

できれば、これにBD-2あたりが入っていれば最高だったと思います。

結論

BOSS PX-1は技術的には優秀で、往年の名機を忠実に再現している点は評価できます。 しかし、以下の理由で積極的に推奨できる製品ではないと個人的には思います。

  • 「何でもできるが一度に一つしかできない」という製品コンセプトの根本的な矛盾があり、結果としてユーザーが使い方に迷ってしまいます。
  • これまでBOSSが行ってきたハードウェア中心のビジネスに突然ソフトウェアを持ち込むことで、ユーザーに不安を与えて従来のユーザーが支えた「中古市場」を無視している。

実用性よりも技術デモンストレーション的な色彩が強いものになってしまっており、「面白いが買わない」製品という位置付けになっています。 BOSSの技術力は認めますが、ユーザーの実用性を軽視したマーケティング主導の製品開発の典型例と言えます。

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