高畑淳子発言に対するフジテレビの問題

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ぽかぽか

9月12日の情報番組「ぽかぽか」で高畑淳子さんが通院した病院の対応 を「牛の屠殺みたいに」と表現しました。これに対して、フジテレビは「職業差別を助長する恐れがある不適切な表現」として、翌日の番組内で発言の取り消しと謝罪を行いました。

発言者がいない中、テレビ局が一方的に発言を取り消し謝罪すると言うのは一体どう言うことなのでしょう?

「屠殺」をめぐる過去の炎上

遡ると1989年には、TBSの「NEWS21」で故・筑紫哲也氏が、麻薬問題で荒れるニューヨークを「残酷な殺し合いの場」として「屠殺場」という言葉を使用し、批判を受けたことがありました。全芝浦屠場労組と全横浜屠場労組がこれに抗議し、筑紫氏は約1年かけて彼らと議論し、自身の発言の差別性を明らかにした上で謝罪しました。

このような過去の事件が、今回フジテレビが異常なスピードで発言取消&謝罪を発信したことに影響しているように思えます。

今回「差別意識」があったのか?

「屠殺」という言葉の使用が差別的であったか考えてみましょう。「屠殺」を推奨される「食肉処理」に置き換えると、そのニュアンスがわかりやすくなります。

筑紫氏の発言では、「残酷な殺し合い=食肉処理」となり、問題があります。

一方、高畑さんの場合、「流れ作業的=食肉処理」との例えです。 「流れ作業的」の例えとして「牛の屠殺」が適切かどうかわかりませんが、 一般的な視聴者は食肉処理場の作業には馴染みがないでしょうからテレビ放送での表現としては 例えとして機能しない可能性が高いという意味で不適切だったと思います。 ただし、差別的な要素があるかは疑問です。一般的に「流れ作業的」なことを工場の「ベルトコンベア」に例えることがありますが、「食肉センター」が合理的で効率的であると指摘することは差別的なのでしょうか。

私は問題なのはフジテレビの対応にあると思っています。主に2点です。

  • 筑紫氏のようにその意図の確認や検証の過程を明らかにせず、「職業差別を助長する恐れがある不適切発言」と断定したこと。
  • 発言者である高畑さんが不在の中で、フジテレビが謝罪したこと。

これでは、フジテレビが言葉狩りを行い、出演者を「差別的」と断罪し、一方的に謝罪を発信したように見えます。

「屠殺」と言う言葉

「屠殺」という言葉は古くは757年に施行された「養老律令」でも使用されています。「謂。元謀屠殺、其計已成、身雖不行、仍為首罪合斬」(屠殺を計画し、その計画が成立していれば、自ら行動しなくても首謀者として斬刑に処されるべきである)とあります。このように、「屠殺」とは単に「殺す」という意味であり、差別的なニュアンスは含まれてません。現に隣国の中国でも韓国でも用語として「屠殺」が普通に使用されています。

さらに日本の「畜産物衛生管理法」第7条にて「(家畜の屠殺等)①家畜の屠殺・処理、集油、畜産物の加工・包装及び保管は、第22条第1項により許可を受けた作業場でしなければならない。 」と明記されています。一般的な用語であることがわかります。

報道機関などでよく参照される共同通信社の『記者ハンドブック』では以下のように記載されています。

**とさつ・とちく(屠殺、屠畜)**
→ 食肉加工(場) (注)法律名は「と畜場法」。業務上の食肉処理でないものは「処分、薬殺」など文脈によって言い換える。

共同通信社 『記者ハンドブック』 第14版

「屠殺」は「食肉処理」への言い換えが奨励されいます。 おそらく過去の経由や、字面のイメージからこのような奨励が入ったのでしょう。

差別的な概念を含まず歴史があり隣国も使用し日本でも法令が使用する言葉をなぜか封じ込めようとすると言うのは、何も思考しておらずかえって差別意識を助長するバカな話です。

『記者ハンドブック』について

とはいえ共同通信社の『記者ハンドブック』は1956年の刊行以降、メディア関係者を中心に支持を集めてきた用語集です。 「一般企業の企画・広報担当者からWEBライターまで、文章を書くすべての人にお薦めする日本語用字用語集の決定版です」と共同通信社のサイトで案内されている通り、一つの基準にはなます。

私もずっと使用していましたが、今回の確認のために昨年6年ぶりに更新された第14版を購入しました。

ジェンダー平等などへ過度に配慮していると思われる部分や、URLやメールアドレスは「全角横打ち」など紙メディア特有の部分は鵜呑みにせず補正する必要はありますが、SNSなどで短文を発信する場合も役に立つので一冊は持っていた方が良いと思います。

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