読了『南海トラフ地震の真実』

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Earthquake

よく報道されている南海トラフ地震の発生確率が行政により意図して高く見積もられていることを追った新聞記者のドキュメンタリーです。

南海トラフ地震の70〜80%という発生確率は虚偽

新聞記者である著者が、 「全国地震動予測地図」において、他の地域の地震発生確率は「単純平均モデル」で計算されているところを南海トラフ地震だけ「時間予測モデル」という別の計算ロジックが使用されていることに気付いたことが発端となっています。

他の地域と同じ「単純平均モデル」を使うと、南海トラフ地震の発生率も20%程度となり、 地震学者達の意見を押さえて行政主導で意図的に確立を高く見せていることが分かってきます。

「時間予測モデル」を追っていくと、元にしているデータが参照の参照だったり、1ヶ所だけのデータで数百キロに渡る地域の地震予測データとしていたりと多くの疑義が出てきます。 突き詰めていくと元にしているデータは江戸時代から深掘り工事を行っている港で、データ自体が地震以外のファクターの影響を受けているため、ロジックが正しくともデータが全く信頼できないことが分かってきます。

マスメディアとして希有な良心

疑念から著者は調査を進めていきますが、自身の異動や難しい取材、新聞記事テーマとしての難しさなど多くのハードルがありながら、多くの研究者の良心の声に真摯に耳を傾け、丹念に細かい資料を収集しひも解いていく仮定が描かれています。

特に「時間予測モデル」の根拠となっている室戸岬のデータの正当性を検証するため、 一次資料を求め研究者の参照した資料を調査し、最終的に江戸時代の古文書まで掘り出していく 過程は大変読みごたえがあります。本来研究者がやっておくべき検証だったと思います。

残念ながら、多くのマスメディアは明日の視聴率や部数獲得のため、直近の分かりやすい派手な 事件にどうしてもフォーカスしてしまいがちです。

こうして労力を掛けて真実に迫る姿勢があってこそ、 行政のチェック機構としてのメディアの存在価値が確立されていくのだろうと思います。

地震予測について

本書は、南海トラフ地震の確率が行政により意図的に高められているからと言って、 南海トラフ地震が起こらないと言っているではありません。他の地域の地震対策がおろそかに なることに警告を鳴らしています。事実、地震がないことをアピールし企業誘致を行っていた 熊本では2016年に大きな地震が起こっています。

日本以外では地震予測は不能ということが地震学者の間では確立しており、多くの国で 地震予測に対する取り組みは行われなくなっているそうです。事実、東北地方太平洋沖地震でも 能登半島地震でも専門家は地震の可能性が高いという予想はしていましたが、時期は確定できないため 「予測」という形で行政の対応に繋がることはありませんでした。

行政としては予測がないと地震対策の優先度が決められないとか、国民の危機意識を持ってもらうために確率が必要などの事情があるのでしょうが、行政の都合で情報を操作する危うさは許容できるものではありません。

リスクマネジメントの常識からすると、リスクへの対応はリスクの大きさで決定するものです。 リスクの大きさは、「リスク顕在化確率 x 顕在化したときの影響の大きさ」で判断します。

特に南海トラフだけでなく各都市の人口や施設などを考慮したとき、地震が発生したとき影響は とてつもなく大きいことは分かります。

一方で正確な地震発生確率が算出できなくとも、世界の20%の地震が集中する日本ではゼロでない ことは理解できると思います。

先ほどの「リスク顕在化確率 x 顕在化したときの影響の大きさ」に当てはめると、

  1. リスク顕在化確率は不明だが、ゼロではない
  2. 顕在化の影響は、大都市ではとてつもなく大きい

となると、発生確率を精緻に追うより、都市人口や機能の大きさで地震リスクを図り対策する ことが常識であるはバカでもわかりそうですが・・・

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