The Beatles “Get Back”を観た
2021年11月25日からビートルズの「Get Back」の配信が始まったので、早速ディスニープラスの契約して見てみました。トータル8時間に及ぶので、何度か見直して見ています。
“Get Back”の概要
1970年に映画「Let It Be」として公開された映像の元となったあの「ルーフトップコンサート」を含む60時間以上の未発表映像と150時間以上の未発表音源をピーター・ジャクソン監督 [f1] が再編集したものです。
こういった映画が制作されるというニュースを聞いたのは確か3年ほど前でしたから、編集に3年以上の時間を要したようです。
当初は映画として劇場で公開することを予定していたようですが、結局ディズニープラスからの配信となりました。
ビートルズはフィリピンでの事件やキリスト発言をめぐる騒動で嫌気がさして1966年にコンサートを辞めてしまい、スタジオに篭って「Sgt. Papers Lonely Hearts Club Band」など伝説ともなるアルバムを発表していきます。
その後、マネージャーの死、最高峰のアルバム完成後のロス?などの影響からか、1968年に発表された俗に「ホワイト・アルバム」と言われるアルバムは高い評価を得られませんでした。当時初めて8トラックが導入されて、同時に演奏する必要がなくなり、メンバーが個別にレコーディングしていたようです。「ソロ曲の寄せ集め」と揶揄される所以です。
「ゲットバック・セッション」はこういった状況を変えようとポールの発案で、オーバーダビングを行わないアルバムを制作し、その過程を録画して映画にしようというプロジェクトが1969年1月から進められました。結局正式なレコーディングは1月末に行われ、1月30日に「ルーフトップ・コンサート」と呼ばれるアップル本社屋上でのライブで一区切りがつけられました。結局当初の企画はグダグダになり、のちに録音したアルバム「アビー・ロード」の方が先に発売され、1970年になって音源の方はアルバム「Let It Be」として、映像の方は映画「Let It Be」として公開されました。
今回のピーター・ジャクソン監督編集のこの作品では、1月2日のセッション開始からるーフトップコンサートまでのカレンダーを追ってドキュメンタリー風に構成しています。
マニアには貴重な情報源
ゲットバック・セッションについての情報は、オフィシャルには以下の3点くらいしかなかったのではないでしょうか。
アルバム「Let It Be]」
映画「Let It Be」
映像版「アンソロジー」の一部
このうち、アルバム「Let It Be」はゲットバック・セッションで現場監督を勤めたグリン・ジョンズの編集を、ジョンがフィル・スペクターに渡してしまい改ざんに近い編集をしてしまったのでかなりのものが失われています。
また映画「Let It Be」は 1970年のアカデミー賞 [f2] とグラミー賞 [f3] を受賞しましたが、ビートルズの解散も相まって、それ以降再上演なども行われることが少なかったようです。1980年代にビデオなどがリリースされたようですが、アップル・コアの許可がなかったようですぐに販売停止となっています。
したがって、「アンソロジー」が出るまで、映画「Let It Be」の映像すらなかなか見る機会がないものでした。私も中学時代に友人が入っていたビートルズファンクラブの上映会で一度見ただけです。
映画「Let It Be」の上演時間は80分程度ですが、60時間からの切り取りなので演奏部分を中心にポールとジョージの言い争いなどが印象に残り暗い印象を受けます。グリン・ジョンズも2015年のインタビューで「当時の現場の雰囲気はそれほど悪くなかった、映画『Let It Be』が暗い仕上がりなのは当時のマネージャー、アラン・クレインのせいである」と評していました。
確かに、映画「Let It Be」で受けた暗い印象とは程遠く、意外にメンバーは和気藹々とやっているがわかってホッとしました。映像では解散問題や小野ヨーコの問題、アレン・クレインとの確執、ポールとジョージの衝突なども収録されていますが、それでも一緒に演奏してアレンジを練ったりしている姿は想像していたものとはかなり違いました。
これは3話に分けて8時間にしたからこその成果だと思います。もしかすると、2時間の映画にしていたら映画「Let It Be」がもう一本できただけかもしれません。
デジタル技術による修復に驚いた
ルーフトップコンサートなどは別にして、スタジオのセッションなどの録画は2点のカメラで音声もモノラルでした。オリジナルのテープでは、音質も悪く楽器の音にボーカルが負けているなどバランスも欠いた音源だったようです。映像は16ミリフィルムで、粒子も荒く彩度も低い上に、映像も音声も良いとは言えないない保存状態でかなりのダメージを受けていたようです。
上記の特別映像を見ると、映像も音声も最新の機械学習を使って甦らされているのがわかります。
映像の鮮明さは昔見た映画「Let It Be」で感じた暗さを吹き飛ばしてくれました。
音声についても機械学習で楽器の音や個々人の音声を学習させモノラルの音源からそれぞれの音を選別して抽出できるようにしたそうです。こうして全ての楽器やボーカルをモノラルトラックとして抽出して音質を向上させた上で、バランスをとってリミックスしたということです。
実際には音は欠損してしまっているので、この抽出段階で機械学習で補完的に埋められた音という意味では " In Event of Moon Disaster ”のようなDeepFakeに近いのかもしれません。
こうした技術で、音響の良いスタジオで最近撮られた映像のようなとなっています。そこに60年代の新聞や当時彼らが使っていた食器などが並んでいるので妙な気分になってきます。
脚注