読了『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』
話題になっていたのでピーター・ディアマンディス著の『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』を読んでみました。
ISBN-13: | 978-4910063133 |
---|---|
ISBN-10: | 4910063137 |
小売/広告/エンタテインメント/交通/教育/医療/長寿/金融/不動産/環境。テクノロジーの“融合”によって、大変化は予想より早くやってくる。「シリコンバレーのボス」が、この先10年のビジネス・産業・ライフスタイルを1冊に凝縮!
原題が "The future is faster than you think" なので 「2030年」と特定して書かれている訳ではありませんが、遠い未来の話でもないので例えとしてはキャッチーかなと思います。
簡単にいうと、以下のようなことをベースに具体的なエビデンスを示しながら、 直近10年くらいでどのようなことが起こっていくかが述べられています。
画期的で革新的なテクノロジーというものは指数関数的(エクスポネンシャル)に 発展していく。
現在いくつものエクスポネンシャルなテクノロジーが融合(コンバージェンス)することで さらに大きなイノベーションを起こしつつあり、市場、社会、生活を大きく変えていく。
革新的な技術が指数関数的に発展していくのは私たちの世代はムーアの法則を実際に体験していますし、 人類の歴史を振り返れば明らかです。 それにこの10年ほどで確かにいろんな新しい技術が出てきており、ある種の臨界点を迎えている 雰囲気に確実にあります。それがこの10年くらいで融合してさらに大きな変化になるというのは納得です。
技術に楽観的な未来
本書では、以下のようが技術をエクスポネンシャル・テクノロジーとして挙げています。
量子コンピュータ
人工知能(AI)
ロボティクス
ナノテクノロジー
バイオテクノロジー
材料科学
ネットワーク
センサー
3Dプリンティング
拡張現実(AR)
仮想現実(VR)
ブロックチェーン
こう並べると、著者が書いているように本当に革新的な技術が列をなしてやってきている感じします。
書かれているようにこのような変化は多くの破壊や新たな問題を引き起こすでしょう。
しかし、それらに対して割と楽観的に新しい技術を可能性を信じていると思われる著者の姿勢は 技術者としては非常にしっくりきました。 特に最終章で述べられているこれらの変化の結果五つの移動が起こるであろう未来は、 ジェイムズ・P・ホーガンの小説のように印象的でした。
個人的には「バーチャルへの移住」で述べられている「フロー状態」に、スプラトゥーン2でも 体験できていますから。
納得のブロックチェーン
ここ数年 IT業界でもブロックチェーンが流行です。
でも本当に理解して持て囃しているのか疑問です。例えば、割とブロックチェーンの取り組みに 積極的なのが金融業界です。私には理解不能です。スーパーマンがクリプトナイトを持て囃しているようなもんですね。
本書では、簡潔に正しい理解で述べられています。
この仲介者を排除し、代わりにネットワーク上のすべてのコンピュータが取引の正当性を確認する
仲介者(金融機関)を廃し不要にする技術に対して、排除される仲介者が ビジネスが侵食されることを前提に新しいビジネスモデルを検討するなら理解できますが、 そこは置き去りにして金融システムのどこにブロックチェーン技術が応用できるだろう とかの勉強会は笑うしかありません。
そんな未来は来ないかもしれないけれど
個人的には、本書に書かれている未来は十分可能性があると思いますし、そういう未来も 夢見ています。
一方で、本書にある様なことがすべてそう簡単に現実にならないのだろうなという予感もします。
本書でも 少し述べられてますが、私自身、日々の仕事で以下のような「損失回避性」に企業は意外なほど囚われているのを目の当たりにしているからです。
認知バイアスの一つで、現在手にしているものと引き換えに、未来に何か新しいものが手に入るとしても、後者のほうがずっと価値が低いのではないかと疑念を抱くことだ。人が習慣を変えられないのも、企業がなかなかイノベーションを生み出せないのも、そして文化の変容にこれほど時間がかかるのも、すべてこのため
これは、GAFAどころかユニコーン企業もなかなか生み出せない日本のビジネス土壌のせいであれば良いのですが。
あと本書で気になった点は、訳のまずさです。コンバージェンス、エクスポネンシャルとか こんな用語をカタカナで並べる必要はないし、こういう訳し方しかできないところに翻訳者の 程度の低さを感じます。