直列6気筒エンジンの復活
最近ベンツが直列6気筒エンジンを復活させて話題になっています。
直列6気筒エンジンとは
直列6気筒エンジンとは、その名の通りシリンダー(気筒)が6つ直列に並んだ エンジン形式です。
以前から日本では高級車に搭載されてきました。以前のクラウン、古くはTOYOTA 2000GT、そしてスカイラインやスープラなど高性能・高級な自動車は直列6気筒 を採用しているケースが非常に多い時代がありました。
直列の6気筒で4ストロークのエンジンの場合、120°ごとに1つの気筒が燃焼 工程に入りますが、同時にもう一つの気筒も吸入工程で同じ動きをしています。 そしてこの2つの同じ動きをする気筒が3ペア存在するのが直列6気筒で 前後で振動が相殺されるので、エンジンの振動面で有利です。水平対向6気筒 と共に一次振動・二次振動および偶力振動を完全に打ち消すことができるので、 カウンターウエイトやバランサーなどが必要ありません。
「シルキースムーズ」と例えられるように、これが非常にスムーズな運転 感覚をもたらす結果となっています。高級車に採用されていたのは、その パワーと共にこの上質感のためです。
また、吸排気や熱処理のレイアウトが取りやすくターボ化もしやすいと言われ ています。
なぜ直列6気筒は廃れたか
日本でも高性能車のシンボルのように持てはやされた直列6気筒ですが、 その後廃れていきます。
直列6気筒を搭載していたスカイラインがクラウンも惜しまれながら 直列6気筒の搭載をやめてしまいました。多くの車がV型6気筒に移行 していきます。
理由はパッケージングの変化と安全基準の強化です。
まずはパッケージングの面から。
直列6気筒はどうしても縦方向にエンジンが長くなってします。すると、 エンジンを収めるための縦方向に長いボンネットが必要となります。 昔はこれが高性能車の証でした。しかし現代では居住性の要求の高まり とともにボンネット・スペースへのコンパクト化の要求も高く、 それに見合ったパッケージングが求められます。 従って、直列6気筒のエンジンをボンネットに収めるパッケージング難しく なってきたのです。
また、同じよう室内空間が優先されるため、プロペラシャフトを室内の下に通す必要 がある後輪駆動(FR)から、現代の車は徐々に前輪駆動(FF)に移行してきました。
FRではエンジンは縦置きされプロペラシャフトに接続されますが、FFではエンジンは 横置きされトランスミッションに接続されます。これが縦方向に長い直列6気筒では フロントのサスペンションやホイールハウスと干渉するため搭載はかなり無理があり ます。
このような自動車のパッケージが変わってきたので、大きな直列6気筒より コンパクトなV型6気筒が採用されやすくなりました。
次に安全基準の強化の面からいうと、現代の自動車は衝突時の安全性のために ボンネット部分に「クラッシャブルゾーン」を設ける必要があります。 ただでさえ、直列6気筒だとボンネットに余裕がなくなりがちですが、さらに そこにクラッシャブルゾーンを設けるとなると、FF車ではエンジンを横置きに しFR車では少しでもコンパクトなエンジンをという傾向となります。ここでも 直列6気筒は不利です。
こういう理由から徐々に直列6気筒はよりコンパクトなV型6気筒に置き換わって いきました。直列6気筒を残すのはBMWのみと状況でした。
なぜ直列6気筒は復活するのか
こうした中、ベンツは直列6気筒を復活させたのですが、その理由はなんでしょうか。
それは「ダウンサイジング」の影響です。
まず、「ダウンサイジング」によりこれまでの自動車のヒエラルキーに変化が 生じます。
V型6気筒が担っていた「ちょっといい車」のグレードはダウンサイジングの 波からターボ付きの直列4気筒が担うこととなりました。直列4気筒でターボつきだと 400馬力弱出ている車もあります。日本車をみていると、SUBARUのWRXかホンダの TYPE-Rくらいですが、欧州車を見ると結構ものすごいことになっています。 このようにダウンサイジングでのターボ技術の発達で直列 4気筒で十分にV型6気筒並のパフォーマンスが実現できるようにって置き換わって きました。
そうすると「ちょっといい車」よりも「もっといい車」の世界にもこのダウンサイジング の波は押し寄せます。このグレードの車だとV型8気筒エンジンを採用していたケースが ほとんどです。
このグレードのダウンサイジングの移行先として検討されているのが、直列6気筒 エンジンです。V型8気筒というエンジン形式も非常に振動が少ないエンジンとして 知られています。そうすると2気筒切り取ったV型6気筒エンジンではその上質感が 味わえず問題となります。しかし、同様に非常にシルキーなエンジンとして知られる 直列6気筒であれば同様な上質感を出すことができるのです。
そして、直列6気筒といえばターボとも相性が良いので現代の技術であればV型8気筒 に迫るパフォーマンスを出すことは十分可能です。熱処理の面でも効率が良いので 燃費面からも都合が良いのです。サイズ面では、そもそも「もっといい車」なので ボンネットサイズには余裕があるのと、直列6気筒エンジン自体も電動化技術などに よりエンジン前方のベルト駆動システムなど不要になり全長を短くすることが可能に なっています。
また、エンジン製造の面からも直列6気筒が復活するベースがあります。
BMWが行なっているように「エンジンのモジュラー化」が進んで行くと思われます。 これはもっとも効率が良いと言われてる500ccの気筒を単位として設計し、この 同じボア、ストローク、ピッチの気筒を並べてエンジンにを設計して行く技術で す。これを3つ並べると直列3気筒1,500ccエンジン、4つ並べると直列4気筒2,000cc エンジン、6つ並べると直列6気筒3,000ccエンジンが出来上がります。
ダウンサイジングにより、直列4気筒 -> 直列3気筒、V型6気筒->直列4気筒 が進んで おりどのメーカーも直列3気筒、直列4気筒の需要が多くなっています。より高級なV型 8気筒や10気筒のダウンサイジングは、V型6気筒でなくこれらと同じ部品を共用しコスト を下げながらより設計できる直列6気筒の方が製造面でもメリットがあるのです。
そう考えると国産メーカーは高級車のゾーンはこれからより重要だと思いますが、10年 ほど遅れていますね。
そういえば、悲しいことにスバルも素晴らしかった水平対向6気筒をほぼ捨て去ってますね。