書評:異骸

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最近ほとんど書籍はKindleになっているのですが、久しぶりにリアルな書籍で買いました。

学園を舞台にしたゾンビものです。 特に脈絡もなく、突然生徒たちがゾンビ化してお互いに襲い合います。そして、ゾンビ化してない生徒は逃げ惑いますが、一定時間経つとゾンビ化した者たちが理性を取り戻します。これが繰り返し起こり、ゾンビ化中は喰い合いによる殺し合い、理系を取り戻しても軋轢による殺し合いとなってしまいます。

そんな中、主人公の親友とガールフレンドもゾンビ化します。主人公は親友とガールフレンドを見捨てられずに……

読んでみると、全体のストーリーの練り方やその見せ方に問題がありそうです。

まず、生徒たちが何故学校に留まってゾンビ化した生徒と相対しているかの必然性が感じられません。 外の世界の様子がきちんと描けれていないのですが、断片からは同様な状況のように想定されていると思います。しかし、学校周辺の様子が描かれているだけで、積極的に外の世界の様子を調べようという普通なら考えつきそうなことを実行する生徒はいません。百歩譲って、外も同様だとなんらかの方法で生徒達が知ったとしても、「外も危険だから学校にいよう」と考える人間だけでなく、「同じ危険なら、安全な場所があるかもしれない外に行こう」と考える生徒がいなくては不自然です。

また、描かれている人の反応が不自然です。 例えば、最初のゾンビ化が収まって血の海と化した学校で、誰かが放送室から「正気に戻ったみたいです、一度校庭に出ませんか」と放送。校庭に戻ったところ、またゾンビ化し血の海。2巻の冒頭でも同様に「校庭に出てみませんか?」です。この状況で「校庭でませんか」なんて放送は不自然だし、直後の状況から考えてこの現象を仕込んだ者の罠だとわたしは深読みしました。が、どうもそんな伏線でもないようです。

また、ゾンビのルールもよく分からない。 ゾンビものには一定のルールが存在します。普遍的なルールは、「ゾンビに噛まれたものは死ぬとゾンビ化する」です。が、この物語ではゾンビ化と人間に戻る時間が繰り返すので、「ゾンビに噛まれたら、ゾンビ化する」となっています。つまり、「死」は条件ではないのです。ゾンビというよりグールですね。

では、ゾンビに喉元など致命傷となる傷で噛まれたら? 一般のゾンビものでは、そういう死人ほど悲惨な姿でゾンビになってきます。 しかし、この物語では人間に戻る状態なのでゾンビは生きていると考えるべきです。そうするとゾンビに致命傷を負わされたものはゾンビにならずに死ぬんじゃないか?という疑問が発生します。実際、出血が多くゾンビが死ぬということが描写されています。初期の襲撃では噛まれる程度でしたが、ゾンビの数が増えてくると集団で襲われるので骨がむき出しになるくらい食い荒らされて被害者は死んでいきます。 ソンビの怖さはゾンビに襲われたものはすべからくゾンビになるところが怖いのであって、これじゃある一定以上にはゾンビは増えないことになってしまう。

その時々で思いついて書いている感じで、世界観を練りこんだりそれをどう読者にわかりやすく伝えるかという技術に問題があるようです。

また、一見して、ゾンビ化した人間が一定時間で人間に戻り理性を取り戻すという設定は、ありそうでなかった新しいアイディアです。上手く活用すれば、ゾンビ化した人間の悲嘆と絶望を、周囲の人間の困惑と恐怖を描けて深みのある内容になる可能性もあったかと思います。が、主人公の反応が極端すぎてなかなか何かに感情移入できません。

親友やガールフレンドを助けたいのはわかります。しかし、目の前で何人も食い殺されている状況でも、主人公はゾンビ状態の二人を助けよう優先します。具体的な救済の算段があるわけでもなく他人の危険も顧みず、ひたすら二人の友達を引き回して正常な生徒たちの集団に連れて行こうとします。学校や街中がゾンビ化で壊滅状態で自分たちもこれからの安全が危ぶまれる中でも、主人公は常にガールフレンドの安否が最優先です。ゾンビものの悲哀は、愛しい人がゾンビ化し、顔形が変わらない相手を無効化しなければならない点です。それを受け入れられない者は「ウォーキングデッド」の”提督”のように異常者か悪人として登場します。この物語では、「ゾンビが時に人間化する」というルールがあるので、明らかに死者でも愛する異常な愛情と判別もできません。では、この主人公の行動で作者は何を訴えたいのでしょう? わたしには「この非常時に、四六時中くるみ、くるみ(ガールフレンドの名)って、ゾンビ以上に頭に虫沸いてんじゃないか」と主人公の頭の悪さを訴えているとしか思えません。

そして、バカなので物語は一向に進行しません。

立ち読み感覚で買ったのですが、買ってはいけませんでした。

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