書評:ハードトーク
TBSの『JNNニュースの森』や『NEWS23X』などのキャスターも務め、現役のジャーナリストである松原耕二氏の2作目の小説です。
ストーリーは作者と同様テレビ局のキャスターが主人公です。記者からインタビューアーへの転機、順調なキャリア、そして家族の問題、突然の逆境が、おそらく作者の経験からリアルに描かれています。そして、そこから数少ない友人に助けられながら立ち直っていき、その過程で多くのものを発見する主人公は歳が近いだけに感情移入できました。最後の章で、特にインタビューを通して再生していく主人公と「総理」には、つい涙が止まらなくなりました。
多くのインタビューが描かれています。その真剣勝負ぶり、生々しさが伝わってくるその文章は圧倒的です。かつてそのインタビューで橋本総理辞任の引金を引き、東北大震災では1人警警戒区域に放射線防護服を着て取材をする作者でしか書けない世界でしょう。作り事でなく本当にこういった「決定的瞬間」となるインタビューってあるんだろうなと思わせてくれます。犬の散歩シーンをもう少し減らして、インタビューのダイナミズムを楽しめるシーンがもう少しあればと思ったくらいです。ニューヨーク勤務や沖縄取材など実際の作者自身と重ねている部分も多く、どういう心情でこの物語を綴ったのかなんとなく伝わってきます。
米国ではインタビューアーというポジションがしっかりと根付いていますが、日本のジャーナリズムの中ではまだまだ認知されているとは言い難い状況です。この本を読むと彼がディレクターであった番組でどういうものを目指したかよくわかります。願わくば、作中の「ハードトーク」のような番組を作っていただきたいと思いました。