書評: 福家警部補の挨拶
刑事コロンボの形式と言えばわかりやすいでしょうか。最初に犯罪が描かれて、緻密に練られた犯罪が徐々に突き崩されていくという形式です。トリックは全て読者に最初に提示されるので、読者は捜査側の視点で推理を働かせるのでなく、その蟻の穴ほどのトリックの緩さから犯罪のアリバイが解かれていく様を楽しむというスタイルです。犯罪が緻密であればあるほど、そのカタルシスも大きくなります。
本書は短編なのでページ数が制限あります。その中でトリックの提示と刑事によるトリックのひも解きを行うには、そのトリックの難度が適度でなければなりません。そういう意味では、倒叙スタイルのミステリとしてはライトなノリです。通勤電車で読む短編としては丁度よいかもしれません。
わたしの場合ドラマを先に見ていましたが、最初大きな違和感を感じました。
それは倒叙ミステリでは、トリック提示のため加害者視点か第三者視点で加害者を中心に描かざるを得ません。どうしても加害者に感情移入しやすいストーリー展開となります。本書でも福家自身の描写はほとんどなく、まるで透明人間です。刑事コロンボなどは魅力的ですが、あれは長いシリーズで徐々に描かれた結果です。
ドラマでは、やっぱり壇れいの魅力で成り立っており、倒叙スタイルを採りながら福家の視点で描かれています。警察内での軋轢や二岡との関係など新たを挿入する形になっており、福家自体のキャラクターをより描き込む脚本になっています。もしかすると脚本家は「倒叙ミステリ」を理解してないのではないかと不安になりますが、日本の1クール基本というテレビドラマという性格と壇れいというよい女優さんの配役を考えると適切なバランスなのでしょう。
福家警部補は壇れいにはハマリ役かもしれません。ピーター・フォークのように自身を代表する役になって、続編が続けて作られる状況になればよいかなと思います。